第20章 おかえりの時間
『まあ、私もあの子がいなくなって欲しいと思った人の内の一人だけどね』
「どういう意味です」
『あの子はねぇ、全ての負の感情を受け入れるために生まれてきたの。
怒り
悲しみ
孤独
嫌悪
自分の感情だけでなく、周りから向けられる視線も全部。言わば器としてこの世に存在するの。
私もあれで正解だったと思うよ?あの子がいたから私は思うように歌えなかった。
早稲田遊夢という存在がいなくなった今、私は自由になれた。もっと沢山歌える。笑顔を届けられる!
まあでも、あれでも考える頭はあるからキャパオーバーしちゃって死んじゃったって訳。
質問はこんな感じでいいかな?』
遊夢ちゃんが笑ってくるんと回る
「ええ…」
『でもね、死んだ遊夢がお世話になった先生たちにはお礼をするのが礼儀かなって。
だからみんなを呼んだんだ!これならみんな喜んでくれるでしょ?
貸切ライブは初めてだからわくわくするなぁ…ふふっ』
ああ、これだ。僕が画面前で感じた恐怖は。
みんな遊夢ちゃんにみんなの思いに気が付いて欲しくて黙ったまま見つめる
『どうしたの?それだけじゃあつまらない?
じゃあ、みんなも一緒にステージで歌おうよ!私みんなの歌ってるところも聞きたいな!
それに飽きたらゲームをしよう!私こう見えて結構得意なんだよ?ボードゲームもテレビゲームも!』
「……」
『ふふふ、遊夢のクラスの子はみんなシャイだったのかな?
ねえ、みんなは何がしたい?私、みんなを笑顔にしたいの!』
他人の笑顔のために媚びる彼女は、
例えるならピエロだ…
『ねえ、君はどうしたい?』
どうすれば…彼女は戻ってくる?
『君だよ、水色の髪の君!』
視線を上げるといつの間にか遊夢ちゃんが僕の目の前にいて顔を覗き込んでいた。みんなもその移動に気が付かなかったようで目を見開く
「え?」
いつの間に……!?
というか…
「…名前…」
『なまえ?ああ、ごめんね。私Mineだから遊夢の記憶はないんだよね。
だから君たちの名前は知らないの』
「…ッ!」