第3章 自分の娘のような
ー山鳥毛ー
どこにも見当たらない雛鳥を心配しつつ、私は本丸に戻ってきた。
心配で落ち着かないが、とにかく1度戻っているかもしれないと信じた。
「小豆長光…すまなかった急にとび…だ。」
部屋に戻ると、私の上着を掛布団のように羽織り小さなサングラスを頭元に置いて雛鳥は寝ていた。
「風で飛んだのか自分で持ってきたのか分からないが、大好きな山鳥毛の真似をするために主の部屋で準備していたらしい。」
そういえば、小鳥の部屋は基本入室禁止だ。
こちらの仕事と現世での仕事をするため、入室するには一言声をかけなくてはならないためだ。
準備とは?と思ったがすぐに分かった。
顔や首に模様とも言い難い模様が入っていた。
鏡を見ていたのか左右が反対だ。
その様子に私は心配だったと叱咤しそうな感情が安堵とその健気さに消えた。
「他の者は知っているのか?」
「あぁ、ここに来てはみんな君みたいな表情だったよ。君の真似をしてるらしいと言ったら呆れたように笑っててな。」
こんな寝顔を見ては誰も怒る気なんて消えるだろうと私は思った。
その夜、雛鳥が帰ってから小鳥にこの件を謝られてしまった。
「うちのバカ娘が悪ぃことしたな…。」
「いや、無事だったから良かったよ。」
酒を酌み交わし私たちは今日あった雛鳥のことを話した。
「そういや、あいつから見せてもらったか?」
「ん…?何をだ?」
「あの絵のこと。」
「いや?」
「俺と家内とあいつとお前が書かれてたぞ。」
「私が?」
「よっぽど気に入られてるんだな。」
そう言うと小鳥は私にその絵を見せてきた。
雛鳥らしい絵だったがそれは確かに私も書かれていた。
私はつい、力の抜けた笑みが零れた。
「全く、父親が2人いるみてぇだな。」
「それは、私からしたらありがたき光栄な事だ。」
また、雛鳥が遊びに来るのが待ち遠しくなる。
こんなにも慌ただしい1日がやけに短く感じ、愛おしいとすら私は思いつつ、その日の疲れと共に酒を楽しんだ。