第9章 本心は
だったらもう、零の所に...
『ごめんなさい、こんなんじゃ色々と失格ですよね...色々良くして下さったのは本当に感謝しています...』
言葉を少し詰まらせながらも。
「みなみ、話を聞け」
『もう...大丈夫ですから...色々御迷惑おかけしました。スマホ、置いていきますね』
変声機によって戻された赤井さんの声を聞かないフリして、顔も見れなくて
そのままバッグをもって玄関へ向かう。
「みなみ、待て」
こんな時に限って履いていたのはアンクルストラップのサンダル。
ストラップを付けるのは後でいいから履いてしまおう。
「みなみ、待つんだ」
右足から履いた所に後ろから来た赤井さんに腕を掴まれて。
涙で溢れた顔なんて見られたくなくて、腕を振り解こうとしても敵わない。
「話を聞いてくれんか」
そう言われ、後ろから強く抱き締められると
本当は離れたくない気持ちが涙と共に溢れてきて。
面倒臭い女だと自覚すると自己嫌悪の様な物も襲ってくる。
「すまなかった。俺も少々言い過ぎた」
『良いんです、赤井さんは何も悪くないので...』
左足もサンダルに通して、腕の中から抜けようとしたら更に強く抱き締められて。
「行くな」
『私、この世界の情報についてはもう全然役に立ちませんよ。需要は消えた筈です』
「何を言うんだ。俺が本当にお前を都合の良い要人だと思っているのか?」
『当たり前じゃないですか...』
「最初は少なくともそうだった、そいつは認めるさ。だが、そんなもんは直ぐに消え去ったんだ」
『...』
「みなみ、お前の事が大事なんだ」
『そんな...わけ...』
「あるさ、降谷君との間には少々邪魔させて貰ったがな。好きな女を取られたくないと云う気持ちは誰もが同じだろう?それに俺の正体を知る人間は限られている」
う、そ...赤井さんが...私を?
『ほん...とに...?』
「ああ。嘘は付かん」
「ほら、だから早くそいつを脱いで戻ってこい」