第5章 ■香水
「ジェス!ちょっと」
「?はい!」
夕食を終え部屋に戻ろうとしたところでハンジ分隊長に呼び止められる。
壁外調査やトイレの時以外、巨人の研究に明け暮れているハンジさんがただの新兵である私を改めて呼ぶのは珍しいことだった。
ハンジさんの体臭から何徹したかわかるくらいには班に馴染んできたつもりだったが、所属する班の上司にはまだ畏まった敬礼が抜けない。
「いいよ、そんなに畏まらなくても」
「はっ」
見透かされたようだ。
「相変わらず真面目だね。調査兵団では貴重な…おっと、また話が逸れるところだった」
「あ、あはは……」
エルヴィン団長から聞いていたハンジさんの長話伝説が実現しなくてよかった……。
「これ買ったんだけどさ、私の肌には合わなくて。使ってくれないか」
ハンジさんが胸ポケットから取りだしたのは、試験管のような細長い小指サイズのガラスの筒で、ガラスには色がついているのか中の液体が薄らピンク色に発光している。
「これって……」
「香水さ」
「香水!?」
以前ウォールシーナへお使いに行った時、ショーウィンドウで見かけた小瓶と似ているなと思った予想が当たった。
可愛い外見とは裏腹に法外な金額のそれに腰が抜けそうになったのを覚えていたので、ハンジさんの言葉に声が裏返ってしまうのも無理はなかった。
だって、私が生涯調査兵団で働いたとしても買えない額だもの!
壁外の巨人を全て駆逐して外の世界へ領土を広げられれば香水の材料もいつか安くなるんだろうか。
「すぐにでも試した…あえっと、捨てるのも勿体ないしさぁ、あ、あははは」
「そうですよ!こんな一生手に入るかもわかならい貴重品、廃棄だなんて勿体ないです!」
「それじゃあ、」
「はい!ありがたく頂戴します!」
「そうかそうか!それは良かった!」
貧しい村育ちだった為か貰えるものはなんでも貰える精神で首を縦にブンブン振った。なにかごにょごにょ言ってもいたが、早く使ってみたくて気にならなかった。普段汗まみれの泥まみれになる兵士でも、匂いくらいは可愛くなりたいというのが乙女心。