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【短編集】海を見に行こう

第1章 最終奪還作戦の朝



「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

そんな会話とは裏腹に、滅多に帰ってこれない彼を引き止めるようなキスをする。
昇ったばかりの薄ら白い朝日が、目を瞑る彼の顔に影を落とした。
近所の人達が誰も起きてないことをいいことに、私は何度も彼の唇を求める。
普段は人前でこんなこと…と恥ずかしがったり、しても少しだけという彼も、今日だけは素直に私の体を抱き寄せては応えてくれる。

そんな仕草に、いつもの逢瀬よりも強くモブリットの気持ちを感じる。
出会った頃からずっと、人類のために戦う信念を抱いては壁外調査へ挑んでいたけれど。今回は、まるで命を投げ打ってでも目的を成し遂げると決めているような__

ウォールマリア陥落から5年後の850年。

一時は調査兵団にあらぬ疑いが掛けられて、モブリットを匿う時期があったけれど、晴れて胸を張って歩けるようになったのがつい最近。本音を言えば、彼を匿う生活がずっと続けばいいなんて思っていた。
怪我ひとつないキレイだった体に、いくつもの傷跡を残す彼と体を重ねる時間が、いつしか胸を裂かれるような苦しい時間になったから。
彼を待っている時間が、まるで永遠の闇の中にいるような心地にさせられてしまうから。

『今回もあなたは死なずに帰ってくるのでしょう?』
『自分の命に変えてでも奪還作戦を成功させようだなんて、私のためにもしないでしょう?』

そんな風に今すぐにでも問いただしてしまいたい。
この不安を取り払うように、思いつく限りの仮説を否定してほしい。

でも私はそれを熱いキスで飲み下す。
モブリットは人類の自由と尊厳、そして私たちの未来のために心臓を捧げることに迷いがないと知っているから。

私の嫌いな、自由の翼を背負う隊服を着て。
モブリットの背中がどんどん小さくなっていく。
私は彼の姿が見えなくなるまで、その場から離れず決して目を逸らさない。

兵舎へ続く道をただまっすぐに、振り返りもせず歩く姿に私は願う。


…どうか今日も、最後になりませんように。
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