第14章 海を見に行こう
「え?何が……、あれ?」
肩を掴まれたことに驚いたのか、ジェスは呆気に取られるような顔をしていた。
しかし、頬に伝う尋常じゃない量の雫に気づくと、困ったような声で微笑んだ。
「大丈夫か?!どこか痛いのか!」
「あはは、大丈夫…。………なんでだろう、止まんないや」
掌であわただしく涙を拭い続ける彼女に居ても立っても居られなくなり、近くにあった石段に誘導して座らせた。
大粒の涙がコンクリートの色を変える。
ハンカチを渡し、背中を摩り続けると、ようやく止まってくれたようだが、原因が不明なだけに心配は治まらない。
でも、ジェスが「もう大丈夫だから」と言って笑ってしまえば、それ以上は何も言えなくなってしまった。
繰り返し、大きく深呼吸する彼女を見ていることしかできなかった。
「……真っ青だよ?」
「…………心配にもなるだろ」
「そうだよね、ごめん。ありがとうね」
今度こそ本当に大丈夫そうな表情になり、肩の力が抜けた。
「どうしてだろ、涙なんか……きれいな海に感動しちゃったのかも?」
「……今回限りにしてくれよ?」
「ごめんって」
俺も笑って言うと、肩に彼女の重さが加わって、その体温に安心した。
遊び疲れた子供のように、瞼を伏せたジェスは俺に寄りかかったままだった。
海なんか、初めて見るわけでもないのに。
こんなにもジェスは近くにいるのに。
この波が彼女を攫って俺をひとりにしてしまう気がして、涙腺が潤みそうになる。
大丈夫。今日は最後じゃない。
自然と胸に浮かんだその気持ちをどうにか彼女に伝えたくなって、目の前にあったつむじにキスを落とした。
そして、どうしても言いたくなってしまった言葉を呟いた。
「……ただいま。ジェス」
「………おかえり」
どうしてこんなこと言いたくなったのか。
どうして当たり前のように答えたのか。
妙に大人びた君であれば、全て知っているかもしれないな。