第12章 ▲紫苑
ゆっくりと過去から今に戻ってくる。
どうしてあの顔を、声を忘れられるというのだろうか。
厳しくも美しく、自分を生かすためだけに、嫌われてもいいからと冷徹であった彼女。
俺も班員も助けるなと言って、自分はそう出来なかった優しいジェスさんのことを。
赤い日記には、自分に申し訳なく思っているとか、自分の立体機動がより上手くなったことを本当はもっと素直に褒めたかったとか、日々の色んな気持ちが描き綴られている。
葬儀に使う遺品整理で偶然見つけたこの日記に、ハンジさんも驚いていたっけ。
パラパラとページをめくって、最後のページに挟んである押し花の栞を手に取る。
鬼教官が本当は、好きな花で栞を作ってしまうくらい少女趣味であったことは彼女が死んでから知った。
そんな彼女に自分が特別な感情を抱いていることも。
窓の外が完全に明るくなると、部屋のドアがノックされる。
「モブリット、ちょっと書類整理に付き合ってくれ!徹夜じゃ終わらなかったんだよー」
「分隊長がそんな調子でどうするんですか」
日記をもとあった所にしまい、着替えてハンジさんに合流する。
どれだけ時間が経っても、自分たちの立場が変わっても、壁の外で逝ってしまった彼女のことを忘れないようにともう一度胸に誓う。
人差し指で胸を突くと、不思議と勇気が湧いてきたのだった_。