第12章 いち子
「緑粋窯」はその名の通り緑深い山の中にあった。
賢人とわたしは電車とバスを乗り継いで長い時間をかけてやって来た。
怪訝そうな顔で出て来たのは「いかにも」な長髪を束ねて口髭を薄く生やした案外若そうな窯主。
皿や茶碗を所狭しと並べた小屋の奥の扉からはろくろを回す音や話し声が漏れてきていた。ちょうど陶芸教室をやっているのだろう。
陶芸教室に『蕗田』という女性は来ていないかと訊ねたが、
「‥‥…個人情報はおしえられないね。」
と窯主は「帰れ」と言わんばかりに手の甲を見せてヒラヒラと振り、扉の向こうへ去ろうと背を向けた。
その時、
――――――カララ
静かに扉の開く音がした。
戸口に立っていたのは花柄のエプロンを着けた上品なシルバーヘアーの女性。
「『蕗田』は私ですわ。どうなさったの?」