第12章 いち子
――――わたしは蕗田先生の話をした。
親身になって勉強を教えてくれてたのに2年生に上がる直前に急に学校からいなくなったと。
「う〜ん、そのじいちゃん先生、何か知ってるかもしれないな!」
「だけど連絡先わかんないんだよ―――――
あ、でも―――――」
「?」
わたしはトートバッグから職員室の洗いかごに残されていた湯呑みを出した。大切にプチプチに包んである。
「これは蕗田先生が大切にしてた湯呑み。陶芸が趣味の奥さん手作りの贈り物だって。定年で辞めるなら大事なものは持って帰るに違いないのに、職員室に残されていて…………」
「ムッ、それは鋭い着眼点だ!」
そう言って「彼」はリュックからノートパソコンを取り出した。
「ちょっとその湯呑みの底、見せてもらっていいかな?」
わたしは頷き、丁寧にプチプチを外した。
「――――緑粋窯か…」
「彼」は湯呑みの底にあった窯名を検索した。
「N野県か……遠いけど俺は行ってみようと思う!君はどうする?」
「もちろん行くよ!」
二つ返事してしまっている自分にびっくりした。
「―――その前に。」
少し考えてわたしは言った。
「名前教えてよ!わたしはいち子。」
「自分は賢人。」