第11章 緊急事態
独房の中には係員の他、何日か置きに『シーツ交換』の業者の人が入ってくる。
係員と同じ様に頭からすっぽり防護服を着ている。いつも淡々と作業を済ませてこちらも見ずにさっさと出て行く。
今日の業者さんもさくさくとシーツと掛布を替えて退出しようとしたところで――――
バサバサッ………
房の隅で膝を抱えていた私の足元に替えたシーツを落としてしまった。
(新人さんなのかな?)
「あの、これ………」
私は足元のシーツを拾って丸めてその業者さんに渡そうとした。
業者さんはニュッと右腕を私に向って伸ばしてきた。差し出されたゴム手袋をキッチリと嵌めた右手の平には―――――
(え?!)
『ビョウキニナレ』
薄く消え入りそうな文字だったが確かにそう書いてあった!!
業者さんはシーツを私からひったくると、いつもの様に無言で房を出て行った。
(………ビョウキニナレって?!
病気に?酷い!
あ………………)
先ほどシールド越しに一瞬合ったあの瞳に見覚えが…………