第6章 第二学年一学期
親父はギャンブル狂いで母ちゃんは病弱。
なのに兄弟は多くて、俺んちは絵に描いた様な貧乏だった。
何とかして定時制高校には入ったが、朝は新聞配達、夜は居酒屋でと俺は働きに働いてた。
毎日毎日生きていくのにいっぱいいっぱいだった俺だけど、毎朝新聞配達の帰りに河川敷の道をチャリ飛ばしてる時にすれ違うランニングしている女のコがちょっと気になってた。
雪の様に真っ白な顔で黒い髪がサラサラしてて、ジャージもランニングシューズも良い物を身に着けてるから俺なんかとは住んでる世界が違うんだなとは一目で分かってたけど。
ところがある朝何と!向こうから俺に話しかけてきたんだ!
「おはようございまあす!!」
俺は急ブレーキをかけた。
「いつもすれ違ってますよねっ?!」
「………ん、あっ、そ、そうですね。何か………?」
「いいなあ、自転車。」
「はい?」
「自転車いいですね!」
無邪気にキラキラした瞳で話してくるシオリはたまらなく可愛かった。
「シオリも乗れたらいいのにな。」
さっき言った様にシオリんちは超セレブで金持ちで超お嬢だから危ないからって自転車になど乗せてもらえないんだと。
学校への行き帰りも運転手付きの高級車だから、まず必要ないしね。
体弱いから体力つける為に毎朝走ってるらしいが、夢はチャリ乗って風を切って走ることだとか。
「お父様とお母様が聞いたらひっくり返りそうだけど………。」
ちょっと乗ってみるかと聞いたら二つ返事だった。思い切りのいいお嬢様なんだ。
サドルの高さを調節して生まれて初めて乗る自転車。
「最初だから後ろ押さえてるから。」
「うん、お願い!うわあ、シオリ自転車乗ってる!」
俺が後ろ持ってフラつきながらも5m位は進んだ。
「すごい!シオリ乗れてる!」
「筋がいいよ。すぐに乗れるようになるんじゃないかな?」
「じゃ、教えて。」
「はい?」
「毎朝、河原(ここ)で自転車教えて。」
「……いいけど俺、朝は15分くらいしか時間ないよ。」
早く家に戻って弟妹と母に朝メシを食わせなければならなかった。
「それじゃ足りなーい。ねえ、水曜の夕方はシオリここに来れるから教えて。」
「はあ、水曜………」
「毎週水曜の夜はお母様が学校の『母の会』の会合でお出掛けするから、シオリ内緒でお家出られるの。」