第6章 第二学年一学期
「なんだ、なんだぁ?初夜からケンカかぁ?」
翌朝、食餌を運んできた係員は離れて休んでいる私たちを見て笑った。
「若いクセに据え膳食わねえとはなあ!」
―――彼は何を言われても表情を変えない。
彼は本当に優しくて、私の「排泄」の時は壁の方見ていてくれるし、食餌も食べられない分は分からない様にして食べてくれる。たまに果物や甘い乳製品が付いてきた時は自分の分を私にくれた。
これまで私のまわりにいた男子は皆乱暴で、みすぼらしい私の容姿を貶して虐めてくる人ばかりだったから、優しい彼にどう接していいか分からなかった。
「あ、ありがとう………」と小さな声で呟くのが精いっぱいだった。
最初の頃は部屋に来る度、セクハラどころじゃない卑猥な言葉を浴びせかけていた男の係員たちだが次第に何も言わなくなっていた。
(最初から私の排泄の消毒や入浴は女性がやってくれることになっていてこれは助かっていた。)
一週間ほど経って――――入浴から戻ってきた彼の背中を見て私は驚いた。
肩甲骨のところが真っ黒だ!
(毎晩、私に気を遣って硬い床に寝てるからだ―――――)
その晩、私は思い切って言った。
「あのっ!」
「………何?」
不機嫌そうな顔だった。
「こ、今夜からは、私がそっちに寝ます!」
「だめだ!」
速攻で応えが返ってきた。
「で、でもっ背中……痛いんじゃないか………と………」
「あぁ、このくらい何ともねーよ!
じゃ、寝るぞ、おやすみ。」
(………初めて「おやすみ」って言われた……)
それだけ、たったそれだけなのに何故か私の胸は高鳴った。
私は勇気を振り絞ってもう一度呼びかけた。
「あの、あのっ!」
「……ん〜俺?」
半分寝かかっていたのかくぐもった声だった。
「そうです!あのっ!」
「………俺は『あの』じゃなくって『翔太郎』って名前があるんだけど?」
(翔太郎…………)
「じゃ、翔太郎さんっ!」
「ショータでいいよ、皆そう呼ぶ。」
「……ショ、ショータ?」
「で、あんたは?」
「私?…………果音!私は果音………」
「果音…………分かった。
………ところで何?」