第16章 プリンセス
軽く砂煙を上げてピカピカの高級車が門の前に停まった。
いかにも高そうなスーツ姿の男性が運転席から降りてきて―――こ慣れた身のこなしで助手席のドアを開けた。
抱えた大きな花束に埋もれる様にして降りてきたのは―――――ぬけるような白い肌にサラッサラの黒髪の少女、まさにプリンセス――――――
「じゃあね、慎也さん♡」
プリンセスは可愛らしい手をヒラヒラと振る。
伸也さんと呼ばれたその人は右手を軽く上げてプリンセス――――シオリさんに微笑むとまた流れる様にスマートに車に乗り込むと、再び砂煙を上げて去っていった。
車が門を曲がると、手を振っていたシオリさんは花束を抱えて踊る様な足取りでお屋敷の中に消えていった。
お屋敷の向かいの小道の陰に隠れていた私とショータには気付くこともなく………
私はそっとショータの横顔を見た。
「……ーショータ?!」
ショータは駆け出していた。
駆け出して、買ってきた数本の花を閉じられた門の前に置くとまた同じ速さで戻ってきた。
「行こう!」
「ショータ…………」
また車のエンジン音が聞こえた。
お屋敷の前に停まったのはまた高級車だけど黒塗りの大きな車。後部座席から女の人が降りてきた、
「シオリの母ちゃんだ。」
「あ………」
「ご苦労さま。」
毛皮のコートに身を包んだシオリさんのお母さんは運転手にそう言うと門を開けた。
「お帰りなさい!お母様!!」
シオリさんが玄関から飛び出してきた。
「あら、シオリちゃん、帰ってたの?」
「うん、さっき送ってもらったばっかり。」
「そう!どうだった?慎也さんとのお誕生日デートは?」
(お誕生日…………デート………)