第2章 キミを探しに。
「ただいま」
「おかえり」
パラパラッとめくっていた本から顔をあげ、少しほほ笑んで言う皐月。
「・・・なによ。私の顔になんかついてる?」
「・・・いや、別に」
藍が家に帰ると必ず返事が返ってくる。前はどうでもよかったことなのに、今はとてもうれしく感じる。皐月が藍のところに住みつき始めてもう一か月だ。
「瑠璃川財閥も、ずいぶんアホだね」
コートを脱ぎ、クローゼットの中にしまいながらぽつりと呟くと本をめくる音が止んだ。
「・・・まぁ、確かにそうね。家に居る時は皐月様皐月様ー!って
とやかくかまってたくせに。いざ脱走すればこうなるの?
ったく。信じらんない」
父様に気に入られたかっただけじゃないの。とふてくされたように付け足してまた本をめくりだす。
藍が仕事でいない時の料理を勉強しているようだ。
そういえば、初めてここに来た時とだいぶしゃべり方が変わった。
それも、ここに打ち解けてきたって考えればいいことか。と藍は薄く笑った。
「今日の昼、何食べたの?」
充電器を用意しながら問うと、えっと、タマゴサンド。といれしそうに、少し声のトーンをあげて言った。
よほどおいしいものなのだろうか。こんどボクの分も一切れ残しておいてもらおう。藍はPCを起動した。