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創作小説

第1章 無題


先生は柔らかい笑顔でそう言った。

「私はどうすれば良かったんですか?…って、先生に聞いても仕方ないですけど…。」

私がそう言うと、先生は少し考えてから話し始めた。

「あくまでも僕の意見だけど、Aが絶対正しいと思ってる人間と、Bが絶対正しいと思ってる人間が分かり合えるはずがないんだ。君の家族はたまたま皆、Bの意見の人達だった。だから、Aが正しいと思っている君だけが家の中で孤立していたんじゃないかな。そんな家は逃げてしまえば良かったと思うよ。君とおなじAの意見の人だって世の中にはたくさんいる。そういう人と出逢えば変わっていたと思う。」


私は何度も頷きながら先生の話を聞いていた。

そしてそんな私をきちんと見ながら先生は続けて口を開いた。

「それと、Cの意見っていうのもある。自分には持ち合わせてなかった意見だけど、それもいいねって思える意見だ。そういう意見に出逢えたら視野が、世界が広がるんじゃないかなって、僕は思うんだ。」

私はその先生の言葉に深く納得した。

「先生、私今、その意見いいねって思いました。Cの意見です。」

私がそう言うと、先生は一瞬面を食らったような表情を浮かべた。
が、それもすぐに和らぎ、2人で顔を見合わせて笑った。

穏やかな空気の中、私はふと我に返り言った。

「私は、退院したら捕まるんですよね…。」

すると先生の表情が曇った。

「そうだね…。実は警察から、容態が回復したら連絡するように言われているんだ。…これからその連絡をしようと思う。」

そう言って先生は私を悲しそうに見つめた。

「はい…。分かりました…。」

私には、そう答える他なかった。

静かな部屋の中、先生の後ろに見える満開の桜がくすんで見えた。

「先生、本当に色々とありがとうございました。」

私は深々と頭を下げてそう言った。



「…また、顔見せに来てね。今度は悪いことしないで、更生した立派な姿で会いに来て欲しい。」

先生は真っ直ぐ私の目を見て笑った。

気づいたら、私も先生も涙ぐんでいた。


私は家族を殺めた事に後悔はしていない。先生と出逢えたから。
Cの意見に出逢えたから。これからもこの出会いは、ここで過ごした日々は忘れないだろう。
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