第1章 ご主人様と猫。猫のお話。
大きな声ではないがハッキリと響いた低い声。
会場内は一瞬で凍りついたようにしんとした空気になる。それからしばらくして、ザワザワと煩くなっていった。
悠もその値に驚きを隠せず、大きく顔を上げる。会場入り口の壁にもたれ掛かるひとりの男性が、小さく手を上げていた。
薄暗くてよく見えないが、おそらくスーツを着た派手なピンクの髪色の男性。
「聞こえなかったのか、あァ?二億だっつってンだろ」
男性は目を細めて不機嫌を露わに舞台に目をやる。司会者は慌てて場を仕切った。
「二億…。二億です!二億が出ました!他にいらっしゃいませんか?」
司会の声に、八千五百万の男性は悔しそうに座り込んだ。
「他にいらっしゃらないようでしたら、これにてニ億で落札とさせて頂きます」
ザワつく会場からぱらぱらと疎に拍手が起こる。次第にそれは、落札を認める大きな拍手へと変わっていった。
「では、これにて二億で落札とさせて頂きます!」