第2章 ご主人様と猫。ご主人様のお話。
三途は溜息とともに煙を吐き出す。
ふと顔を上げた。
舞台上にはスポットライトに当てられた女が椅子に座っている。白の適当な服を着せられて、手枷を嵌められていた。静かに座るその女は、悪くない顔付きをしているので、七千から億くらいが妥当だろうか。
ーー悪くない。
「八千五百!!」
男性の声が大きく響いた。
少し小太りの男性が手を挙げている。
「…………」
「八千五百。八千五百万です!他にいらっしゃいませんか?」
手を上げた男は笑っていた。金を持っていそうなジジィ。こう言うタイプは嫌いだ。
これで決まりそうだ。
本日最後のオークションに、会場も盛り上がりを見せている。
男に視線が集まる中、ふと見上げた舞台上。先まで俯いていた女は、静かに顔を上げていた。
何処か全てを捨てたような暗い瞳でけれど僅かに怯えながら会場を見る彼女。
「あーあ、可哀想」
煙草を片手にそれを見て、小さく独り呟いた。
派手で目を見張るものは何もない。
何処にでも居そうな普通の小娘だ。
普通ーー。
たぶん今の自分には、一番遠い言葉。
昔から、何ひとつ普通なんて興味もなかった。
どうでもいい。
ーーマイキー以外は、どうでもいい。
でも。
ーーその“普通の女の子”が。
何となく欲しくなった。
あんなクソジジィに好き勝手にされるだけの哀れな娘なら。
ーーいっそ、俺が。
なんて。