第1章 ご主人様と猫。猫のお話。
知らない方が幸せな事は、世の中にはいくらかあるんだ。例えば、裏の社会。
どうしようもなく思いながらとぼとぼと歩いて、華美な舞台の真ん中にひとり立ち置かれた。
パチンと音が鳴って、ライトが眩しく当たれば、おお、と会場から歓声が上がる。
絵画に宝石、彫刻から個人情報、裏帳簿…
そして何らかの形で此処に辿り着いた私たち人間。
カランカラン、とベルが鳴り会場が静かになると、司会の男性の声が辺りに響いた。
「では、本日の目玉、最後の商品です」
眩しい舞台端にマイクを持った司会者。
形式的に落ち着いて文を述べる。
「こちらは珍しい日本人女性。__歳。
戸籍は削除済ですので、御安心してお求め下さい。では、1千万から始めます」
テレビとかで聞いた事のある掛け声だった。
ーー別段、この世に未練もないが。
悠は僅かに目を伏せた。
ーー私は訳も分からず此処にいて。
目的地も知らないまま気が付けば車に乗せられ、運ばれて来た。バイヤーだと言われた男性が、ぴったりと悠の横に着いていた。