第1章 ご主人様と猫。猫のお話。
「擦り傷だな。まぁ、このくらいなら後は残らねェだろ」
抵抗も出来ないまま握られた悠の小さな手。壊れ物に触れるのように優しく引き寄せ、手首の傷をじっくり見た。
「痛むンなら後で薬も用意させてやる」
言って悠の顔を見た。
その顔は、銃口を突き付けていたあの時の表情と変わらない。
「…大丈夫、です…」
返事をしないと言う選択肢がないように思えた。
この人を怒らせたら、恐らく悠に先は無い。
彼は当たり前のように銃を取り出し、当たり前のように優しく悠の手を取る。
まだ何が彼の正解なのかよく分からないが。
「ンなら構わねェけど」
三途は悠の手を下ろして静かに離した。
「あんま跡残るような傷は作るんじゃねェぞ」
その白く長い指先が、悠の髪を一束掬い上げる。
“商品”として、一応手入れのされた髪と身体。
その上から包むように簡素な服を着せられている。買った人物が“どんなふうにも扱えるように”。
「今日から俺のもンなんだからな」
掬った指先から悠の髪が溢れ落ちていく。
三途は表情なくそれを眺めて、指先の髪が無くなるとその指で悠の頬に触れた。親指がゆっくりと、悠の唇をなぞる。