第1章 この世に生まれたからには
俺はそして産ぶ声をあげた。けたましい産ぶ声だったらしい。病院の看護師が抱き抱えてくれて、母にバトンタッチされた時には周りが珍しいのか隅々までよく見ていた。
そして俺の名前はジャックと名付けられた。
「生まれたのか?」
父が慌てて病室に入ってきた。
「生まれたわよ。この子の名前はもう決まっているの。」
「えっ?」
「今日からジャックよ。」
「そうか、お前は今日からジャックか。よかったな。」
父と母のそんな会話が聞こえた。
それからしばらくの間は病院で過ごしていたがやがて退院して母と一緒に自宅に戻った。
ガチャッ。
「ほら、ここがジャックの家よ。」
母に言われて家の中を全部隈なく見た。
広々とした白い壁の続く廊下が見える。ここはアメリカだから日本のような立派な玄関はない。だから玄関のドアを開けるとすぐに廊下が広がっているのだ。
「わぁい、弟だーー!」
俺にとっては兄になる少年が走ってやってきた。
「こらこら、走ると転ぶぞ!」
後ろから父が笑ってやってきた。
「これから仲良くしてね。ジェームズお兄ちゃん。」
母が兄にそう呼びかけると兄はこくりと頷いて俺の頭を触った。
兄の名前はジェームズと言って俺とは2つ歳が離れていた。
それが俺が見た最初の家族だった。明るくて料理上手の母。週に一度はゴルフに行くけどそれ以外はいっぱい遊んでくれた父。
そして無邪気に一緒に遊んでくれた兄。ここまで見るとごく普通の家族のように思える。しかし、何が俺を狂わせたのだろうか。
これから話すことは俺が語る過去の話。全てがシナリオ通りにはいかないが、これまで何があったのかできるだけ詳しく話していこうと思うからみんなについてきて欲しい。
それでは続きを話そう。