乙女ゲームの一生徒に転生した私は穏やかに暮らしたい
第1章 この現実を受け入れよ
『思い出を、声に乗せて』。
これは、私が前世でよく遊んでいた乙女ゲームのタイトルである。
とある高校の放送部が舞台であり、主人公は幼馴染や同じ部活の先輩らと、部活や行事を通じて仲良くなり、いつしか彼らに恋心を抱き──と言うようなストーリーだ。
悲しい、暗い展開になる事がないため、平和な展開が好きな私にはストーリーがとても合っており、キャラが魅力的なこの作品は私の大好きなゲームだった。
各ルートがどんな内容だったかを思い出せるくらいにはやり込んでいる。徹夜でゲームをして翌日学校で痛い目に合う、なんて定番な事も経験した。
思い出を、声に乗せて、通称『おもこえ』は私の友達もやっており、感想を言い合った事もある。
要は、このゲームには、私の青春が詰まっている訳だ。
……で、その世界に私が来てしまったと?
今でも信じられないが、現に私にはゲームの舞台である高校に合格した記憶だってあるし、何ならもう何度か登校している。因みに入学して一週間が経った。
前世の記憶は鮮明に思い出せる。そして、その記憶が途中で突然ぶつりと切れている辺りは──まぁ、そういう事なのだろう。なんたって『前世』な訳だし。
とにかく、私は乙女ゲームの世界の一生徒として、これから学園生活を送る訳だ。
悪役として転生しなくて本当に良かった。
心からの安堵のため息を吐き、私は昼食を作るべく立ち上がるのだった。