乙女ゲームの一生徒に転生した私は穏やかに暮らしたい
第4章 仮入部期間は張り切るべき時
私が来てから五分くらいが経ち、部室にいる新入生は私を入れて三人になった。
私は、さやか先輩に連れられて部室の奥に進む同級生二人を何となく眺めていた。今は待ち時間なのだ。
「印刷が終わった。新入生は来てるか?」
閉じられた扉が開き、誰かが入ってくる。
「部長!」
放送部の部員──名前は分からないが──の声が私の耳に入ってきた。え、ぶ、部長!?
慌てて部室の出入口を見ると、なるほど確かに明らかに周りと雰囲気の違う男子生徒がいる。
真ん中分けの黒髪。眼鏡をかけており、目元はきりりとしている。
間違いない。この人は、放送部の部長──柳直葉さんだ。
何故新入生である私が彼の名前を知っているかと言うと、彼が攻略対象だからである。私は、彼の事を一方的に知っているのさ──。
うわ身長高っ……。流石部長、頼れるオーラが全身から漂ってるよ……!
「……そうか、三人」
部長の形の良い唇が動いた。
「もう始めます?」
「ああ、……そうだな。始めよう」
何やら放送部の部員と会話をしている部長。この距離でもばっちり声が聞こえる。
私の耳が良いからか、或いは部室が割と静かだからなのか。……多分後者だな。