【現在HUNTER×2イルミリク執筆中】短編集【R18】
第4章 【ヒロアカ 】【自作】宝贝儿※荼毘【R18】
荼毘の名前を強く叫ぶ彼女の死の淵側の声に、思わずドクターから貰った薬を使ってしまった。
私は空になった瓶を見つめながら、あの時の気持ちを思い出す。
何となく、この薬を使う時は、荼毘の為だと思っていた。
それが荼毘が私を呼ぶ声ではなく、荼毘を想って死に際を叫んだ彼女の声に弔の為の薬を使うとは思っていなかった。
私は懐かしい名前に、反射的に反応した自分の心を苦笑して、その瓶を投げ捨てた。
朽ち果てた、農村の空き家では、瓶が転がる音はよく響いた。
私は硬いベットに横になり、カーテンも掛かっていない、窓らしき四角い穴からちょうど見える月を見上げた。
可愛らしい彼女が、無事に荼毘の元に戻れたなら、荼毘のあの優しい顔を思い出して、これが最善だったと自分に言い聞かせる。
荼毘の気持ちが離れるのを、寂しく無いと言ったら嘘になる。
だけど、あの悲しい炎を宿した目が、それを受け入れなかった自分が、その自分勝手な思いを打ち消す。
あの腕が、声が、私を慈しむ目が、もう自分だけに向けられ無いと分かっても、どうか彼が笑って過ごして居るなら、側に居るのが自分ではなくとも、彼の笑顔を望んでしまうのだ。
私は体をいつもの様に、右側に向ける。
弔と別れてからも、私は寝る前にはどうしてもその位置で、彼を思いながら眠りに付く。
きっと弔もそうして眠っていると分かるから。
そして目の前の弔の残像に涙が出るのは変わらない。
起きていれば弔が私を見るあの愛しい顔も、腕も、弔の匂いも、今も鮮明に思い出す。
その瞬間だけは、離れていても側に弔が居るように感じられる。
ああ、明日からは弔の為にその瞬間に会える為の策を作らないといけない。
それはそれで、また弔の居ないこの世界を生きる意味になる。