第2章 おせんちピープル
いまだに何故東堂くんが毎回私のところまで来て前髪を切るのかはよくわからないけど、切ったあとの清々しい表情を見るのは嫌いじゃないし、何より弱気な東堂くんを見られるという点において、ちょっぴり優越感を抱いてる自分もいる。
それに、こうすることで東堂くんの顔に笑顔が戻るならこれでいい。
お気に入りと思われる水色のカチューシャをつける東堂くんの横顔に「さっぱりしたね」と声をかければ、「まーな、だがこれもこれでかっこいいだろう。美形だからな!」といつもの軽口が返ってきた。
そこにいたのはいつもの東堂くん。唯一普段と違うのは、ざっくりと切られた前髪くらいだろうか。
「さて、そろそろ部活が始まるからな。先に行くぞ」
「うん、頑張って」
ひらひらと手を振ると、東堂くんは満面の笑みでありがとう、と言い残し、夕焼けに染まる廊下へ吸い込まれて行った。