第2章 おせんちピープル
東堂くんは気に入らないことがあると髪の毛を切ってしまう。
放課後、珍しく東堂くんが私のところに来たので、理由を聞いたら「ハサミを貸して欲しい」って。
また何かあったのだろうか、と少し心配に思いつつもペンケースからハサミを取り出して手渡すと東堂くんは何のためらいもなくじょきじょきと前髪を切り始めた。
東堂くんは不器用だ。
普段は口を閉じたら死んでしまうのでは?というくらいおしゃべりなのに、いざ自分の気持ちを表に出そうとすると借りてきた猫のように大人しくなってしまう。
だから今日みたいなことは今までも時々起こって、そういう時は私のところにハサミを借りにくるというのが定石。
じょきじょきと、小気味良い音が放課後の教室の中に響く。
木目の机はあっという間に東堂くんの髪の毛でまだら模様に染まった。
艶やかでなめらかそうなそれはまるで高級なベルベットのようで、綺麗だなあと思う反面、羨ましくもある。
おんなじ人間なのにこうも違うものなのか、今度使ってるトリートメント聞いてみようかと色々と考えているうちに、沢山切って気が済んだらしい東堂くんが机の上に広がった髪の毛をいそいそと集め、ゴミ箱へ捨てていく。あ、なんかもったいない。