第5章 陵南戦
いつものように部活へ向かっただったが、
その足は真っ先に花道ではなく、ひとりで準備をしていた流川のもとへ向いていた。
夕方の柔らかな光が差し込む体育館で、
彼女の影がそっと流川の足元へ重なる。
「…流川」
突然の呼びかけに、流川が僅かに顔を上げる。
流「なんだ」
はどこか言いづらそうに、唇をきゅっと結んだあと、
しゅんと小さくなって言葉を吐き出した。
「昨日はありがと…」
声はほんのささやき程度。
けれど、確かに礼を言おうとしている気持ちが滲んでいた。
流川は一瞬だけ戸惑うようにまばたきをし――
流「いや俺は…」
言いかけた言葉は最後まで出てこない。
代わりに、がふいに胸を張り、勢いよく鼻息を鳴らした。
「こ、これでジュースの件はチャラにしてあげる!ほーら今日は気合い入れてくぞー!」
ぱっと明るくなった声を残し、
はスタスタと他の部員たちの元へ走っていく。
その背中を見送る流川は、
ほんの一瞬だけ目を細め――
流「…どあほう」
ぽそりと、小さく呟いた。
その声には、
昨日の後悔や苛立ちとは違う、微かに温度を帯びた響きがあった。
***
その日の練習は、いつもより体育館の熱気が強かった。
陵南との練習試合を明日に控え、
どの部員も気合い十分だ。
そんな中、もキビキビと動き回り、
声出し、パス回し、メモとり――
マネージャーとしての仕事をテキパキとこなしていた。
木「天羽はもう吹っ切れたみたいだな」
コート脇で木暮が柔らかく笑う。
彩「そうですね」
横で彩子も安心したように微笑んだ。
赤「どうせ桜木に何か言われて立ち直ったんだろ」
赤木は腕を組んだまま、花道の方向をチラリと見る。
3人とも、
まさか“流川の一言”がきっかけだなんて微塵も思っていなかった。
その日、花道は赤木からリバウンドの重要性を叩き込まれ、
しごきのような特訓を受けていた。
疲れ切りながらも前に進む花道。
そして、それを支えるように走り回る。
体育館の空気は夕日に照らされながら、
明日の戦いへ向けて確かに高まっていた。