第4章 基礎練習
流「俺と勝負しろ」
「はぁ…だからなんでよ」
流「悪口言われてムカついたから」
は肩をすくめる。
「あんたそんなこと言われても傷つくようなタイプじゃないでしょ…鬼のメンタルのくせに…」
流「ムカッ」
その一言でほんの僅か眉が動く。
「なんで勝負したいの。本当の理由言ったらしてあげる」
流川はの動きだけではなく、癖、呼吸のリズム、踏み込みのキレまで見ていたのだろう。
少しだけ目が細められる。
流「お前素人なんかじゃないだろ。プレースタイルを見てればわかる。けどあれほどのことが出来るなら、小、中で名前は聞いてるはずだ。それなのに名前も聞いたことなけりゃ、姿も見たことがなかった。なんでだ」
は胸に抱いたままのボールを撫でる。
「本当に経験はないよ。クラブやチーム、部活ではね。ただお父さんから少し教わってただけ。遊びの延長でバスケやってたの」
その瞬間、流川がはっと息を呑んだ。
流「お前の名前は確か天羽…はっ…まさか…!!」
「私のお父さんは天羽ヒロシ。稀に知ってる人がいるね、あんたみたいに」
靴底がきゅっと鳴るほど、流川は動きを止めた。
流「!?」
天羽ヒロシ。
流川がバスケを始めるきっかけとなった男。
憧れ、追いかけ続けた背中。
流(そりゃあんなに出来るはずだ…あんな人に昔から教わってたなんて…)
「ま、今はもう教わってないけどさ」
流「確か飛行機事故で…」
「うん」
淡々としているようで、どこか寂しさが滲む声。
その微かな揺れは、流川にははっきりと届いていた。
流「なおさら勝負しろ。俺と1on1だ」
「はぁ…もう仕方がないなぁ。本気で行くから」
夜の体育館に、背筋の伸びる緊張が走る。
流川と――
互いの胸に抱えたものが違うからこそ、
ぶつけ合うべき“勝負”がそこに生まれた。