第4章 基礎練習
――その瞬間。
胸の奥を突かれたように、の足が止まった。
花道が晴子へ走っていったとき。
ほんの一瞬の“陰り”を、誰よりも早く見抜いたのは――流川だった。
「なっ…」
流「ほら、どあほうじゃねーか」
その無神経なまでに正確な指摘が、
見せたくなかった弱さをあっさり暴いていく。
「…分かってるよ」
流「…」
「分かってるよ!私が1番!どあほうなことしてるって、自分が1番分かってるよ!」
今度の声は怒りでも冗談でもない。
抑え込んでいた感情が溢れるように、真っ直ぐぶつかった。
体育館の空気が揺れる。
「分かんないよ…流川にこの気持ちは…」
流川は黙って聞いている。
それが返って胸の奥を締めつけた。
流「フンッ。分かりたくもねーな。相手に有利なように仕向ける気持ちなんて」
冷ややかな声。
でも、どこかほんの少しだけ温度が低くなった気もする。
「もちろん、私に振り向いて欲しいよ…でも好きだから…大好きだから…笑顔でいてほしいの…幸せになってほしいの…例え、その時花道の隣にいるのが私じゃなくても…」
涙が一粒だけ、落ちた。
流「…」
その沈黙が、責めるでも慰めるでもなく、ただ受け止めているように感じた。
「それに晴子ちゃん、すごく可愛いんだもん…女の私から見ても可愛いと思うし、おしとやかで優しくて、私とはタイプがまるで違う。勝てないよ…勝てるとこ何一つないんだもん…」
肩が落ち、視線も落ちる。
自分の影が体育館の床に滲んでいく。
そのとき――。
流「あんだろ」
「は…?」
流川は顔をそむけるわけでもなく、
誤魔化すように笑うわけでもなく、
ただ真正面から言った。