第4章 基礎練習
彩子は部活を終え、忘れ物を取りに廊下を歩いていた。
ふと、視聴覚室の前を通りかかったとき——
まだ明かりが灯っている。
彩(こんな時間に誰かいるのかしら?それとも消し忘れ?)
不思議に思いながら静かに扉を開けると、そこにいたのは——
机に突っ伏し、ウトウトと船を漕ぐ の姿だった。
彩(!? いったいこんなところで何をしてるのかしら)
声をかけようと一歩中へ踏み込んだ瞬間、彩子は思わず目を見開いた。
視界いっぱいに積みあがった、インターハイのビデオテープの山。
彩「!?」
彩(すごいビデオの量…これ全部インターハイのだわ… 最近桜木花道と帰らないと思ってたら…まさかこれを見てたなんて…それほど桜木花道と一緒にいたいのね…健気で可愛いやつ)
「花道…むにゃむにゃ…」
その寝言に、彩子は思わず頬が緩む。
彩「 」
呼びかけると、はビクッと目を覚ました。
「はっ!彩子しゃん!」
慌ててジュルッと垂れていたヨダレを拭う。
彩「あんたも疲れてるんだから、そろそろ帰んなさいよ」
「こ、これは…!! な、なんでもないので見なかったことに…!!」
バレバレのビデオ山を必死に隠す。
彩子はため息をつきつつも、優しく微笑む。
彩「分かってるわよ。誰にも言わないから。9時までには帰るのよ?それじゃあね」
「はい!」
彩子が視聴覚室を出ようとすると——
「彩子さん!」
勢いよく呼び止められ、振り返る。
彩「ん?」
「起こしてくれてありがとうございます!私精一杯頑張るので、またなんでも教えてください!よろしくお願いします!では!お気をつけて!」
元気よく頭を下げると、は再び視聴覚室へ戻っていった。
あの大量のビデオに、また真正面から向き合うために。
彩子はその背中を見送り、小さく笑った。
彩「あぁ、あんたも気をつけなさいよ!…ふふ。素直で可愛くてサッパリしてて…いい子じゃない。早いとこ桜木花道も気づいてやんなさいよ…」
廊下を満たす静けさの中、彩子の独り言だけが柔らかく響いた。