第71章 懸命
銀行強盗達が立て篭もり始めてから30分程経った。
犯人達は銀行の奥にある金庫でお金を詰め終わったのか
パンパンになった鞄を抱えてぞろぞろと出てきた。
私は間隔的にくる陣痛にずっと耐えていて、
秀一くんはそんな私の額の汗をタオルで拭ってくれた。
『昴さん、ありがと…っ、いったぁ…。』
「頑張れ美緒。きっともうすぐ何か動きがあるはずだ。」
秀一くんの言葉に頷いていると、外から笛の音が聞こえてきた。
外で何かを誘導でもしてるのかと思ったけど
その割には笛の吹き方が変な間隔で…
静まった銀行内にはその笛の音はよく響き、かなり聞き取りやすかった。
『1分後……停電……』
「モールス信号か。…さすが美緒の旦那だな。」
…やっぱり零くん来てくれたんだね。
1分後に停電すると分かり、秀一くんは目を閉じていた。
私は隣に座っていた女性の手を握り、コソッと耳打ちした。
『もうすぐ銀行内の電気が切れますが…
絶対に騒いだり……立ち上がったりしないで下さい。』
「え、えぇ。分かったわ…。」
女性が頷いているのを見ていると
銀行強盗達が私たち人質に銃を向けた。
「さーて、誰を人質にして逃げる?」
「誰でもいいけど、やっぱ男より女じゃね?」
「だな。一番後ろにいる銀行員の女で。」
「よし。じゃあ他の客達は始末するか〜。」
犯人達がそう言うと、人質達はみんなブルブルと肩を震わせ怯えてしまい、男達は銃を構えながら徐々に私たちの元へと近づいてきた。
…大丈夫。もうすぐ1分経つから…
心の中でそう唱えていると
私の目の前に犯人の男が1人立ち止まり銃口を向けた。
「子供と一緒にあの世へ送ってやる。悪く思うなよ?」
…あの世?
『…ふふっ。』
もう私を殺した気になっている男の発言がおもしろくて
私はつい笑ってしまった。
「あん?何がおかしい。」
『終わるのは私の人生じゃなくて…あなた達の人生だよ。』
私が犯人にそう告げると
銀行内は全ての照明が落ち、真っ暗闇に包まれた。