第71章 懸命
「大丈夫…?今妊娠何週目?」
『え…37、週ですけど…』
「そう…。私、以前看護師やっていたから…
ちょっとお腹触るね?」
その女性は私のお腹を優しい手つきで触り、状態を確認してくれた。
「今の所問題ないけど
出産って何が起こるか分からないから…
あなたのことはここにいる間、私が見るから安心して?」
『はぁ…こ、心強いです…。ありがとうございます。』
たまたまこの銀行に来ていた客の中に元看護師いるなんて…
この最悪な状況だが、なんて有難いことだろう。
「すみませんが彼女をお願いします。」
「あなたが旦那さんなの?」
「ふっ、そう見えますか?」
『違います。昴さん、変なこと言わないで。』
こんな時に冗談言ってる場合か!
全く秀一くんは…
そんな事ばっかり言ってるから零くんに嫌われるんだよ…
『っ、いたたっ……!』
「陣痛の間隔は大体10分ね。」
『は、い…初産だから……まだ大丈夫…ですよ、ね?』
「さっきも言ったけど
出産って何が起こるか分からないから…
早く解放してもらえるといいんだけど…。」
「…いえ。
犯人達は我々を解放する気などないでしょう。」
「え…どういう事…?」
秀一くんは銀行内にいる犯人達の動きをずっと見ていたから
きっと彼らの計画に気付いたんだろう。
『普通は…強盗に入る時
顔を見られないように隠しますよね…?
でも…この人達は素顔を晒してる。それはつまり…』
「我々を生きて返すつもりはない、ということです。」
「!!そんな…」
『犯人達は…私達を射殺した後……
誰か1人だけを人質にとってここから逃げるつもりでしょう。』
「さすが美緒さん。こんな状況でも冷静ですね?」
はは、秀一くんの言葉はもう嫌味にしか聞こえないよ。
「じゃあ…私達助からないの…?」
『大丈夫、ですよ…
これから世界で一番頼りになる人が来ますから…』
そうだよね…?
零くん…
きっと…助けに来てくれるよね…?
私はお腹の子を守ってるから…
信じて待ってるよ…。