第63章 復帰
2つあるうちの1つのベンチに座っている零くん。
私は零くんの隣ではなく、空いている方のベンチに
彼に背を向けて座った。
側から見れば知り合い同士には見えないはずだ。
「誰にも見られていないから隣に座ってもよかったのに。」
『うん…まぁ、でも念の為にね。』
「仕事はどうしたんだ?」
『午後からの仕事がキャンセルになって暇だったから
社長に墓参り行ってこいって言われたの。』
「そうか…」
お互い顔や視線を合わさずにする会話。
少し寂しいけど、零くんの声を聞けるだけで幸せだ。
『前田さんのお墓にも行ってくれたんだよね?』
「…ああ。」
『理由…聞いてもいい?』
「お前の両親の墓に来てた時点で分かってるだろ。」
…確かに何となくは分かってる。
きっと私と同じだから。
意地悪な質問したと思うけど、零くんの口から聞きたかった。
『教えてくれないの?』
「…。前田さんには…
美緒を命懸けで守ってくれた感謝を伝えに行った。」
『うん…』
「お前の両親には……
娘さんを下さいって……言いに来た。」