第60章 陥穽
全部話す、と言われてから2人で階段に座り
零くんはゆっくりと話し出した。
「……富士崎 蓮也…」
『!!』
「覚えてるよな…?」
『…忘れる訳ない。』
その男は…かつての私の上司、前田さんを殺した男…
やはり今回の事件はその男が絡んでいるようだ。
「美緒と僕の部屋で過ごした日……
その男が刑務所から脱獄したと知らせが入ったんだ。」
…私が雑誌に載った日のことか。
「そのすぐ後だった。ヒロと連絡が取れなくなったのは…」
『まさか…富士崎に捕まったの…?』
「そうかもしれない。
ヒロのことだから簡単にはやられたりしないと思うが…」
零くんは膝に置いている拳をギュッと強く握りしめていて…
諸伏くんのことをとても心配しているのが伝わってきた。
『風見さんを撃ったのも富士崎なの?』
「ああ。ヒロのスマホからメールが届いたんだ。
罠だとは思ったが呼び出された場所に風見と向かって
あいつは僕のことを庇って撃たれた。
でも、さっき意識が戻ったから大丈夫だ。」
『!!良かった!!』
風見さん…私との約束守ってくれたんだ…
今度ちゃんとお礼言わないと。
「公安の刑事と東社長、伊達班長を襲った連中だが
そいつらも富士崎に金で雇われただけのようだ。」
『つい最近まで刑務所にいたのに
どうしてあの男はお金に余裕があるの?』
「富士崎 蓮也の父親…
富士崎 士郎が援助してるようだ。父親の方が僕達公安を恨んでるから
喜んで金を出したんだろう。」
なるほど…
公安に不正を暴かれたからって仕返しするなんて
やはり頭がおかしいクズっぷりだな。
「息子の蓮也がなぜ美緒と関係のある人物を狙うのかは分からないが
……また近々遊びに行くって伝えておけと言われたよ。」
『…。』
何が遊びに行くだ!ふざけんな…!
私の大事な人を傷つけて一体何がしたいの!?
「きっと富士崎 蓮也は
美緒のことを苦しめて楽しんでいるんだろうな…
あの男達は絶対捕まえてやる。」
零くんは膝に置いていた私の手をギュッと握り
真っ直ぐに私の目を見つめてきて…
久しぶりに見る彼の真剣な表情に胸がドキッと高鳴った。