第58章 公安
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
信じるとか信じないとか
そういう問題じゃないよ……
どうしてそんなに嘘を突き通そうとするの?
どうして……
そんなに辛そうな顔してるの…?
「協力者はただ僕達の指示に従っていればいいんだ。
無闇に首を突っ込もうとするな。」
『それ…本気で言ってるの?』
「……ああ。」
私を事件に関わらせたくないからって……
……もう無理、嘘をつくにも程がある。
私は零くんの側に近づき、目の前まで来たところで手を振り上げ、彼の頬に思い切り平手打ちを食らわせた。
バシッと乾いた音が響き
零くんは私に叩かれたことが信じられなかったのか
驚いた顔でこちらを見ていた。
『ふざけないで!!
公安の指示に従っていればいい?従えないのなら協力者をやめろ?
…そんな思ってもないようなこと言われて
私がはい、分かりましたって引き下がるわけないでしょ!?』
「…っ、美緒……」
『馬鹿にしないでよ!
協力者になるって決めた時から命を狙われるかもしれないってことくらい覚悟してた!
零くんが私を守りたいと思ってるのは分かるけど
私だって零くんを…みんなのことを守りたいの!!』
思っていることを勢いよく全てぶちまけても
零くんは何も言ってくれず、私達の間には沈黙が流れた。
『ここまで言っても零くんの気持ちが変わらないなら…
もういい…。』
口を噤んでいる零くんから目線を逸らすと
私のスマホが鳴り画面を見ると、とある場所からの電話だった。
『もしもし…。はい、そうです。
…っ、え……!
…わかりました、すぐにそちらに行きます。』
電話を切って何も言わずに駐車場の方へ歩き出そうとしたら、零くんが私の腕を掴み引き止めた。
「どこに行くんだ。電話の相手は誰だ?」
『…離して。』
「っ、早く答えろ!」
『零くんには関係ない!!
私、協力者クビなんでしょ!?
だったら私は私で勝手に動くから詮索しないで!』
掴まれていた腕をバッと振り払い、
零くんの顔を見ずに駐車場に向かって走り出した。