第56章 美容
「カットモデル?」
『うん…。フランス人の友達が美容師でね?
今度日本に自分の店をオープンするらしいんけど
カットモデルやってくれないかって頼まれちゃって。』
少し前に零くんが私の家に来てくれたので
2人で作ったご飯を食べながら、今日エリスにお願いされたことを話した。
「引き受けにくい理由でもあるのか?」
『なんかね、エリスの知り合いにファッション雑誌の編者者の人がいるらしくて
美容院の特集ページに載せてもらえることになったんだって。』
「なるほどな。
カットモデルをする美緒の写真も使いたいから
雑誌に載せてもいいか聞かれたんだろ?」
さすが零くん…頭の回転が凄まじく早い。
『顔はできるだけ映らないように撮るらしいんだけど
私は一応公安の協力者だし…雑誌に載るのはどうなのかなって思ったから
返事は保留にしてるんだけど…』
「美緒はどうしたいんだ?」
『エリスはアメリカにいた時に出来た大事な友達だから…
協力してあげたい…かな。』
チラッと零くんの方を見ると少し考え込んでいるようだった。
…やっぱり難しいよね?
公安の協力者が雑誌に載るなんて多少は目立っちゃうと思うし。
『零くんがダメって言うなら私は断るよ。』
「いや…公安の協力者が雑誌に載るのは駄目だとか
そういうルールはないんだが…。」
『?何か気になることでもあるの?』
「…美緒の顔を世間に晒すのがちょっとな。」
『いや、顔って言っても横顔とか後ろ姿だけだよ?』
真剣な顔をして何を悩んでいるのかと思えば……
「それでも少しは映るだろ。
恋人が雑誌に載るのは嬉しいが、少し複雑なんだよ…。」
『じゃあ……だめってこと?』
だめだって言われると思って凹みながら聞くと
零くんは困ったようにため息をついていた。