第54章 厚情
屋上に着くと公安の刑事さんが2人いて
元々ここで待機予定の零くんの部下達だ。
「降谷さん!大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない。」
『いや、問題あるでしょ。怪我してるのに。
すみませんが、救急箱ってあります?
彼の手当てをしたいんですが…。』
「は、はい!用意してありますのでこちらをお使い下さい!」
『ありがとうございます!』
公安の刑事さんは私に救急箱を手渡してくれたので
お礼を言うとビシッと敬礼していた。
地上を見渡せる場所まで移動してから2人で地べたに座り零くんの手当てをしていると
彼は私の方を全く見ずに顔を背けようとしていて、
なんとか顔を覗き込むと、なぜかムッとしている表情だった。
『零くん?なんか不機嫌?』
「………別に…そんなことない。」
いや、分かりやすすぎる!!
明らかに不機嫌じゃん。
『そんなに傷口が痛むの?後で病院行く?』
「これくらい平気だ。」
『じゃあなんでムッとしてるの?』
「………。」
零くんの腕や頭の傷に消毒をしてからガーゼを当てて
包帯をくるくると巻きながら私の質問に答えてくれるのを待っているが、彼はずっと無言。
私が黙々と手当てをし終えると、
ようやく零くんが話し出してくれた。
「…僕の部下にまで愛想良くしなくていい。」
『…へ?』
「救急箱を用意していたくらいで
あんな笑顔で礼なんて言わなくていいんだよ。」
『あの…』
「美緒の可愛い顔は僕だけが知ってればいいんだ。
笑った顔は特にやばいんだから、他の奴に簡単に見せるな。」
やばいって…
…えーっと、それはつまり…
『零くん…部下の人達にも妬いてくれたりするんだね。
あははっ、可愛い!』
「…っ、お前が無防備に笑ったりするからだろ……。
あいつらの顔見たか?美緒に笑顔向けられて
締まりのない顔してたぞ。」
『えー?
綺麗な敬礼してただけじゃん!』
「なんで気付かないんだよ…鈍いにも程がある。」
それは私が鈍いんじゃなくて
零くんが鋭すぎるだけじゃないの…?