第54章 厚情
『??』
「早く噛んでよ。腕噛まれて逃げられた程にするから。
美緒を止められなかったこと私のせいにされて、降谷に叱られんの嫌だし。」
『……ありがとう、瑞希。ごめんね…』
わたしは瑞希の腕に、痕がつく程度に噛み付いた。
「……っ、渋谷、だってさ。」
『え?』
「研二が電話してるのをこっそり聞いたの。
たぶん降谷達は渋谷にいる。…早く行きな?」
『…瑞希って本当に最高!愛してる!』
瑞希に抱きついてそう告げた後部屋を出て、タクシーを拾い渋谷に向かった。
ー…そしてその途中、わたしは眠らされる前のことを思い出していた。
松田くんに告白されたのも、キスをされたのも……
きっと夢じゃない…現実だ…。
零くん以外の男性とキスしてしまい、罪悪感で押しつぶされそうだが……
とりあえず今は零くんやみんなの無事を確認したかった。
色々考えるのは事件が全て片付いてからにしよう…。
タクシーの運転手に急いでもらうように伝え
わたしは外の街並みを見ながら、早く早く…と心の中で急かしていた。
そんな時、夜空が急に明るくなり正面を見ると
大きな花火が夜空を照らしていた。
『…花火の予定なんてありましたっけ?』
「いや…確か無かったと思いますけどねぇ。」
タクシーの運転手と共に不思議に思っていると
交通規制が張られている場所に到着し、私はタクシーを降りた。
今日はハロウィンなので
渋谷はコスプレをした人で溢れかえっていて、みんなを見つけるのは大変そうだ…。
とりあえず先程の変な花火が上がった場所に向かおうと歩き出したら、周りが少し騒がしくなった。
頭上を見ると
ヘリコプターが低空飛行で炎に包まれながら徐々に落下してきていた。
「おい、なんだよあれ!」
「ねぇ…やばくない…?」
「逃げようぜ!」
周りにいた市民達は走り出し、避難を始めたので
わたしは何とか人の流れから外れてヘリを見上げていた。
ヘリはビルにぶつかるとプロペラが破損し
誰かがヘリの脚を掴んで、ぶら下がっているのが確認できた。
それが誰なのかは見えなかったけど…
私のいる場所から少し離れたところにヘリは地面に落下した…
機体は大きな音を立てて爆破し、激しい炎に包まれていた。