第54章 厚情
『…………。』
目が覚めると、私の目の前には見たことのない天井。
きっと私が飲んだ水の中には松田くんの手によって睡眠薬が入れられていたんだ。
私はどこかの部屋のベットに寝かされていて
布団から飛び起きると部屋の扉がガチャっと音を立てて開き
そこから私の友人の瑞希が、顔を覗かせていた。
「美緒…あんたもう起きたの?」
『瑞希…ここってもしかして…』
「私と研二の家だよ。
松田が眠ってた美緒をここに連れてきたの。」
瑞希はだいぶ大きくなったお腹をさすりながら
私のそばにあった椅子に腰掛けた。
時計を見ると時刻は18時過ぎで、私は4時間近く眠っていたらしい。
『…ごめん瑞希。
私行かなきゃいけないところあるから…』
そう言って立ち上がろうとしたら
瑞希に腕を掴まれ、ここにいるように言われてしまった。
「美緒…
降谷はあんたに睡眠薬を飲ませるように松田に頼んでたんだよ。
どうしてそんなことをしたのか分からないの?」
……分かってる。そんなの分かってるよ…!
私がいつも無茶ばかりするから
零くんは私を心配して眠らせようと考えたんだ。
「あんたは降谷の気持ちが分からないほど馬鹿じゃないでしょ?
全部片付いたら迎えにきてくれるって言ってたから
ここで大人しく待ってなよ。」
『私が何もせずただ大人しく待てる人間だと思う?』
「思わない。全然思わない。
でも美緒を行かせるわけにはいかないの。
あんたを危ない目に合わせたくないっていう降谷の気持ち分かるから。」
瑞希はすごい力で私の腕を掴んでいる。
どうやら何がなんでも私を行かせない気だな…。
『瑞希……手を離して。
わたしはみんなのところへ行く。』
「話聞いてた?行かせないって言ってるでしょ!」
『こんなところでじっとしてるなんて嫌なの!!
みんなが危ない目に遭ってるかもしれないのに
大人しく待ってるだけなんて私には死んでも無理!』
「…っ、ああ、もう!!!
なんであんたはいつもそう頑固なのよ…!」
瑞希は私の腕を掴んでいた手を離すと
私の口元に腕を近づけてきた。