第51章 副手
昴さんに扮している秀一くんはターゲットの男に挨拶をしながら
盗聴器みたいなのを服に忍ばせていた。
その手際の良さを驚きながら見ていると、
私の席の隣に知らない男が1人腰掛けた。
「こんばんは。初めて来られた方ですよね?」
『…はい……、そうですけど。』
「先ほどからずっとお話ししたいと思ってました。
貴方みたいな美しい人と出会えるなんて、私はついてますね?」
ニコッとしながら手を握ってきた男。
私は鳥肌が立ったので、スッと手を引っ込めたが男は私が嫌がっているのを分かってても席を離れなかった。
「すみません、マティーニを頂けますか?」
『あの、私静かに1人で飲みたいんです。』
「一杯くらいいいじゃないですか。一緒に飲みましょうよ。」
……めんどくさい!!
秀一くん早く戻ってきてよ!
チラッと秀一くんに視線を向けると、
なぜか彼の姿はどこにも見当たらない。
…ちょっと!秀一くんどこ行った!?
「…お待たせしました。マティーニです。」
「ああ、ありがとう。
では…2人の出会いに乾杯でもしましょうか。」
秀一くんがどこかに消えてしまった事に苛立っていた私は
男の言葉を無視して自分のカクテルを口に含んだ。
「…気の強いお方だ。
そんなところもまた魅力的でいいですけどね?」
…ウインクしてきたよ、この男。
そこそこいい年した男のウインクほど気持ち悪いものはないな…。
全力で逃げ出したいところだけど、そんな事をしたら目立つだろうし
私は自分のお酒を飲みながら秀一くんを待っていると
隣に座っていた男が自分のお酒を一口飲んだら
そのまま机に突っ伏して動かなくなった。
『……え…なに…?』
「心配ありません。睡眠薬を混ぜたお酒を飲んだので眠っただけです。」
パッと前を向くと、いつの間にか私の目の前まで来ていたバーテンダー。
「この男性は、気に入った女の酒に薬を盛って
ホテルの部屋に連れ込むことで有名なんだ。
さっき僕にこっそり薬を渡してきたよ。美緒がここに来る前にな。」
…。
先ほどと声色が変わっていて
その声は聞き間違えるはずのない私の大好きな人の声だった。