第49章 火事
『やった!零くん、逃げるよ!!』
まだ腕は鈍っていなかったことに喜びながら
彼の腕を引っ張ろうとすると
逆に私の腕を零くんが引っ張ってきて
そのまま唇にキスを落とした。
「…ありがとう美緒。お前はやっぱり最高だな。」
『…っ、こんな時に何してんの!?ばか!』
私がそう言うと零くんは、ふっと笑って
私の腕を引っ張り出口に向かって駆け出した。
倉庫の部屋から出ると通路には先程よりも煙が充満していて火もすぐ近くに迫っていた。
零くんは立ち止まらず
2階の階段がある扉に向かって走っていたので
私が何も言わなくても避難用梯子があることを分かっていたようだった。
こんな時でも冷静な零くんがいてくれて、私はとても心強かった。
2階にもかなり煙が充満していて、
少し息をしただけで苦しくて咽せてしまった。
『ゴホッ……ゴホッ……!』
「美緒…あと少しだ…!」
息が苦しくて限界に近かったが
なんとか梯子の前に辿り着き、零くんは私を肩に担いで梯子を降り出した。
『…零くん……私自分で降りれるよ…。』
「任せとけ。美緒は腕怪我してるだろ。」
『零くんだって頭から血出てるじゃん。誰にやられたの?』
「殺し屋の女。油断して後ろから殴られた。
流石に殺す時間は無かったんだろうな。」
『…っ、あの女…!!
もう一発殴っておけばよかった!!』
「まさかお前……あの女倒したのか?」
『うん。正直ちょっと手強かったけど
零くんを探しに行く前に警察に引き渡したよ。』
「またそんな無茶をして……
でも今回は美緒に助けられたな。
…ありがとう。」
『公安の協力者としての責務を全うするって約束したからね。
…零くんが無事で良かった。』
2人で話をしていると、
下の方から声が聞こえてきたので
地上に近づいてきていることがわかった。
下にいた消防隊の人に支えられながら地上に降り立ち、
私と零くんは毛布に包まれて、酸素ボンベを口元に当てられて呼吸していると、すぐに落ち着いた。