第49章 火事
「妹も……
似たような古い駒を大事そうに持ってたよ…。」
『皇さんが妹さんのバイオリンを奪ったと思って許せなかったあなたは
彼女に脅迫状を出してバイオリンも一緒に燃やしてしまおうと考えたんですね。亡くなった妹さんにこのバイオリンを届けるために…。』
「…ああ。あんたの言う通りだよ。
妹を事故として処理した警察も憎かったからな…。」
男がそう呟くと、ここに来た時よりも通路に煙が充満してきているのが控室の中から確認できた。
『っ、早く避難しましょう!!
このままだと危ないです!
あなたもいつまでも座ってないで早く立ちなさい!』
「…俺はもういい……。
こんな取り返しのつかないことしちまったんだ…。
あの世で妹に詫びるよ……。」
その言葉を聞いた私は男の胸ぐらを掴んで罵った。
『ふざけるな!!
命がある限り取り返しのつかないことなんてないんだよ!』
「…っ、でも……俺は……」
『でもじゃない!!
あなたは皇さんだけじゃなくて
大勢の観客や警察の人間まで危険な目に合わせた!!
その償いもせずに死のうとするなんて私は絶対許さないから!』
私がその男に怒鳴っていると、
控室の中に息を切らしたわたしの同僚、葉山が入ってきた。
「お前…っ、まだこんな所に居たのかよ…。」
『葉山!?なんでここに!?』
「皇さんが忘れ物取りに行ったって聞いたから探してたんだよ…。
それより早く逃げるぞ!」
私達は4人で控室を出ると、
思っていたより煙が充満してきていたので
口元を押さえながら走って出口まで向かった。
しかしその途中、
警備員の男が気になることを話し出した。
「実は……言っておきたいことがあるんだ…
爆弾をゴミ箱に入れたのは俺だが、起動させたのは俺じゃない…。」
……っ、それって…まさか……
次の角を曲がれば出口が見える…という所で
私たちに向けて何処からかキラッと光るナイフが飛んできた。
『っ!!危ない!!』
私は飛んでくるナイフを避けるために皇さんの体を押したが
ナイフは私の腕を掠めてしまい、少し血が滲んでいた。
「……へぇ、私のナイフを避けるなんて大したものね。」
声がした方に目を向けると柱の陰から1人の女が姿を現した。