第38章 悋気
「分かったよ…。正直に答えてやる。
………俺、美緒にキスした。」
「…っ!!」
俺がそう言うと、ゼロはベンチから立ち上がり
胸ぐらを掴んできた。
「…早く殴れよ。避けねぇから。」
自分でもバカなことしたって自覚してるんだ…。
殴られる覚悟くらいできていた。
「僕だって殴りたい。
でも……元はと言えば美緒を泣かせた僕が悪い… 。
お前を殴る資格なんてないんだ…。」
ゼロはそう言いながら俺から手を離したが、
手はずっと握ったまま力が入っているようだった。
「美緒は…気づいてなかっただろ?」
「ああ。お前のこと、紳士呼ばわりしてたぞ。」
…何言ってんだあいつは…。
「お前のその様子だと、美緒と仲直りしたみたいだな。」
「元々喧嘩していたわけじゃない。
…松田、今回は目を瞑るが……
また美緒に手を出したら今度こそ許さない。」
「それはお前次第だな。
また美緒のこと傷つけたら俺はお前を許さないし
奪いに行くつもりだから。」
「…お前は本当に諦めの悪い男だな。」
そんなの俺が1番よく分かってる。
美緒がゼロのことしか思ってないって頭では分かってるのに
俺の中から全然美緒が消えてくれねぇんだ。
どうすれば諦めがつくのか
誰かに教えて欲しいくらいだ……。
「俺は……美緒が幸せならそれでいい。
…だから悲しませるな。
じゃないと俺はいつまで経っても諦めきれねぇよ。」
「…肝に銘じておくよ。朝早くから悪かったな。」
ゼロはそのまま公園の出口に向かって歩き出した。
「はぁー…。あいつもお人よしだな…。
一発くらい殴ればいいのによ。」
俺は一言ぼやいた後、公園を出て宿舎に戻った。
ゼロのせいで朝早く起こされた俺は
いつもより早く警視庁に出勤し、
それから何日間か俺は仕事に励んだ。
周りの奴らは驚いていたけど、
仕事に集中していた方が美緒のことを考えずに済むからちょうどよかった。