第37章 待伏
店に戻ると、梓さんが心配して僕に駆け寄ってきたが
僕が作り笑顔で大丈夫だと伝えるとほっとしていた。
その後は夕方5時頃までバイトをして、
そのまま美緒の職場近くまで歩いて向かった。
車は昨日から警視庁に置いたままにしていたし
そこまで遠くはないのだが
なんとなく今日は歩いていきたい気分だった。
美緒がいつも通る職場近くの道に着き
建物の壁にもたれて彼女が来るのを待った。
あいつが今日仕事なのかどうかも分からないのに
ひたすら道で待つなんてどうかしてると思う。
家で待てば良いのではと考えたが、
僕に会う事を避けて家に帰ってこないかもしれない可能性もあったので
僕は待ち伏せすることを選んだ。
しばらく待ち続けていると
最悪なことに大粒の雨が降ってきてしまった。
…しまった……。
ちゃんと傘を持って、朝家を出たはずなのに
急いでポアロを出たからそのまま傘を持ってくるのを忘れたことに気づいた。
普段の僕ならこんなミスしないのに
自分がよっぽど焦っている事を思い知らされた。
まだ少し暑い季節とは言え
長時間雨に濡れ続けていると体は冷えてしまった。
道行く人は、傘を差さずにずぶ濡れになっている僕を
変な目で見て通り過ぎていくが、そんな視線は全く気にならなかった。
早く美緒に会いたい………。
雨に打たれながらひたすらそう思っていると
僕の大好きな心地の良い声が聞こえてきて
傘を持った彼女は僕に近付いてきた。
やっと……
美緒に会えた…………。