第37章 待伏
立「あの人の……どこがそんなに好きなんですか…?」
「それは……
僕がわざわざ言わなくてもお前なら分かってるんじゃないのか?
この前美緒と体術の稽古をした時の話は風見から聞いている。」
立「っ……。」
美緒は怪我をしていた立花を気遣って
彼女の傷が悪化しないように手を出さずにいたと聞いた。
その話を聞いた時、美緒らしいと思って笑ってしまった。
「あいつは…
いつも自分のことより他人のことばかり気にしてるバカな奴だけど
僕が今まで出会った中で、1番優しいと思った女だ。
だから好きになった。
僕はこれから先も…彼女しか愛せない。」
これが僕の本心だ。
立花は少しの間、俯いたまま無言でいたが
顔を上げた時にはもう吹っ切れたような顔に変わっていた。
立「本当に…若山さんにベタ惚れなんですね。
…正直に話してくれてありがとうございました。
あなたのことは…ちゃんと諦めるように努力します。」
「ああ。
お前は風見達と同じ、僕の大事な部下の1人だ。
これからもしっかり働いてくれ。」
「っ、はい!頑張ります!!
あと……風見さんから聞いてらっしゃると思いますが
若山さんに意地悪なことを言ってしまったので
謝っておいてもらえますか?」
「わかった、伝えておく。じゃあな。」
僕はマンションを出て美緒の家に行こうかと思ったが
故意ではないとはいえ、他の女とキスしてしまったことが後ろめたくて、今日は自分の家に帰ることにした。
しかし美緒が昨日に引き続き
僕と立花が一緒にいるところを見て泣いていたなんて……
なんで気付かなかったんだろうと激しく後悔した。