第37章 待伏
傘を差して帰り道を歩いていると
前方にかなり雨が降っているのに傘を差していない男性が雨に濡れながら建物の壁に背を預けて立っていた。
徐々にその人物に近づいていくと……
その人は私のよく知っている金髪の男で
一体いつからそこに居たのか分からないくらいずぶ濡れだった。
『…っ!?れ……安室さん!?』
零くん、と呼んでしまいそうだったけど外だったので安室さんと呼び直した。
わたしは小走りで彼に駆け寄り、頭上に傘を差してあげた。
『ここで何してるの!?』
「…美緒を……待ってた。」
『っ!?家で待ってれば良かったじゃん!』
「帰って来ないかもしれないと思ったんだ…。
僕は合鍵持ってるし…避けられるかもしれなかったからな。」
『……傘は?コンビニに買いに行けば良かったのに…。』
「美緒がいつこの道を通るか分からないだろ。
離れるわけには行かなかったんだよ。」
わたしはなんて言ったらいいのか分からなくて
視線を下に向けていると、零くんは傘を差しているわたしの手に触れた。
「…松田から聞いた。昨日のこと。」
『……っ。』
「ちゃんと…説明させて欲しい。この前のことも。」
たぶんこの前とは…2人とすれ違った時のことだろう。
零くんを見ると
いつもよりかなり不安そうで緊張したような表情をしていて
私の手に添えられている零くんの手は少し震えていた。
それは雨に濡れて寒いからなのか、
緊張しているからなのかは分からないけど…。
『…分かった。ちゃんと話…聞く。』
「っ、ありがとう。」
正直、話をすることで昨日の場面を思い出しちゃうし
あまり聞きたくはなかったけど…
真剣な顔と声で頼んでくる零くんを拒絶することはできなかった。
『風邪引いちゃうから…わたしの家で話そう?』
家に向かって歩き出そうとすると、
零くんは私が持っていた傘を代わりに持ってくれて
そのまま2人並んで雨の中を歩いた。
家に着くまで会話は無かったので、雨の音だけがやたら大きく聞こえた。