第35章 強盗
こんなモヤモヤした気持ちをしている時に
ツーショットは見たくなかったな…。
2人も私にすぐ気づいていたようだが、
わたしは2人を見ないようにしてそのまますれ違った。
仕事中かもしれないし、
何より並んで歩いている2人を視界に入れたくなかった。
なんだか
すごくお似合いのように見えちゃったから……。
すれ違って少し歩いてから2人のことを振り返ってみると
先ほどよりも2人の距離が近づいていて
零くんの左腕に、立花さんの右腕が絡まっていた。
…っ……。…大丈夫……。
きっと恋人同士にみえる練習でもしているんだ…。
そう自分自身に言い聞かせて仕事場まで歩いたけど
心の中のモヤモヤは先程より悪化していた。
仕事場に着いてからは余計な事を考えないように業務に集中した。
警護対象のオーナーは女性で、
以前、オーナーをお金目当てで狙ってきた不審者を
私が撃退したことがあり、それ以来私の事をとても気に入ってくれている人だ。
『オーナー、今日はよろしくお願いします。』
「美緒ちゃん久しぶりー!こちらこそ、よろしくね!」
今日はオーナーが所有している会社をいくつか回るので
その付き添いをする仕事だ。
車を運転するのはオーナーの秘書で、わたしは助手席に乗り込んだ。
「なんだか美緒ちゃん、少し痩せたんじゃない?
顔色も悪いし……大丈夫?」
『ご心配おかけしてすみません…。
お陰様で忙しくさせてもらってるので、時々食事まで気が回らないことがあるんですよ。でも、体は元気なので大丈夫です!』
「そう?…あなたには助けてもらった恩があるし、
もし悩んでることがあれば、いつでも相談してね?」
『…ありがとうございます。』
…悩み、かぁ。
自分の彼氏が
他の女性と恋人のフリをしていたのを目撃してしまって
めちゃくちゃ嫉妬しましたーなんて、
醜すぎて言えるわけない……。
頭では仕事の内なのかもしれないってわかってるのに
心がそれに追いついて行かないから
わたしはずっとモヤモヤしているんだ。
そんな事を車内で考えていると
車は目的地に到着した。