第32章 拉致
……。
なーにが、恋人できたら大切にしろだよ。
わたしが高校生の時、初めて彼氏ができたって報告したらどんな人かも聞かずに、すぐ別れろ!って言ってきたくせに。
でも…
2人のわたしへの愛情が動画からすごく伝わってきて
悲しくなんかないのに今もまだ涙が止まらずに流れてくる。
秀「美緒の両親と会う時はいつも
お前の話を聞かされてたよ。俺の真似して両利きになったこととかな?」
「……なんだと?」
ちょっと秀一くん!!
それは零くんに言って欲しくないやつ!!
『む、昔の話だよ?
ほら!まだ子供だったから、左利きなのがカッコよく見えて
あの、決して恋してたとかじゃなくて、憧れ的なやつで…』
一生懸命弁解をしているが、零くんの機嫌は悪いままだ。
「美緒、今度からは出来るだけ右手だけ使え。」
『……善処します…。』
いつの間にかわたしの涙は引っ込んでいて
零くんに病院へ連れて行く、と腕を引っ張られて歩き出したところで
秀一くんとすれ違い様に引っ張られている腕とは反対側の手を取られてしまい、立ち止まった。
秀「美緒、安室くんに泣かされたらいつでも言ってこい。
俺は執念深い男だからな。隙があればお前を奪いに行く。」
そう言ってわたしの手の甲に
この前と同じようなキスをした。
それを見ていた零くんには
組織のデータはまた送ってくれ、とだけ言い
秀一くんはすぐに倉庫から立ち去って行った。
「赤井!!貴様!美緒に触るなと言っただろ!」
零くんは怒りながら
私の手の甲を服の袖でずっとゴシゴシ擦っている。
『零くん……ちょっと痛い…。』
「我慢しろ。大体お前はいつも隙を見せすぎなんだよ。
頼むからもう少し警戒してくれ 。」
そんなこと言われても…
ボディーガードの仕事してるから
警戒心は割と強い方だと思うんだけどな。
私の手の甲を赤くなるまで擦った零くんは
再びわたしの手を取って車まで歩き
そのまま病院まで送ってくれた。