第32章 拉致
「虹彩認証は解除できましたが、
もう一つパスワード入力が必要なようです!」
部下の男はパソコンの画面をタトゥーの男に見せ、
それを見た男は眉間に皺を寄せていた。
「くそっ!めんどくせぇ事しやがって!」
どうやらわたしの両親は
念の為二重にロックをかけていたようで
たぶん母さんの案だろうけど……流石だな。
「ボス、パスワードのヒントは見れます。
……Where did you go for your 10th birthday?
(10歳の誕生日はどこに出かけた?)」
…。
私の両親は本当におもしろいことをするなぁ。
「女、パスワードを吐いてもらおうか。」
『言うわけないでしょ?家族の大事な思い出なのよ。』
男に向かってそう言うと、私の頬に平手打ちしてきて
口の中が切れてしまい、血の味がした。
「さっさと吐け。」
『…っ、いった!!』
わたしの髪を強く掴みながら視線を合わせてきた男。
…こんな暴力的な男に絶対吐くか!!
私が無言を貫いていると男はわたしの髪から乱暴に手を離して
懐から拳銃を出し、わたしのこめかみに突き当てた。
『…私が死んだら、パスワードは一生分からなくなるよ?』
「ふっ。どうせ動物園や水族館とか定番な場所だろ。
手当たり次第入力して、必ず金を手に入れてやる。
アグバロスは再び巨大な組織と化すんだ。」
男は笑いながらそう言っていて
拳銃の引き金に手をかけた。
「最後に何か言っておきたいことあるか?」
『うーん…そうだなぁ……。
お気に入りのね、喫茶店があるの。
そこのケーキをまた食べたかったなぁ…。』
私がそう言うと、男は下品な高笑いをしていた。
「ははは!面白い女だ!!
あの世でたくさん食えるといいな…?」
男が引き金を引こうとした瞬間、
倉庫の上の方にある窓が割れる音がして
私が突きつけられていた拳銃が吹き飛び、男の手から血が飛び散った。