第32章 拉致
…頭がぼーっとする……
一体何が起きたのか
まだ意識がはっきりしていない頭で私は必死に思い出そうとしていた。
たしか…葉山がマンションを訪れてきて
ドアを開けたら薬品嗅がされて…
…っ、そうだ……
眠る前に葉山じゃない事に気づいて…
そこまで思い出す頃には意識がはっきりしてきて
自分の状態を確認しようとパッと顔を上げると
私がいる場所はどこかの倉庫みたいだった。
周りには誰も見当たらず、体は椅子に縛られている状態だった。
手足を動かして解こうと試してみるが
腕はロープで椅子ごと縛られていて
手は後ろに回され、手首を鎖でぐるぐるに巻かれており
拘束を解くのは難しそうだった。
どうしようか考えていると
誰かが私の方へ近づいてくる足音が聞こえた。
「ふっ、やっと起きたのか。」
その男は葉山の顔だったけど、声が全然違い
腕には土星のタトゥーがチラッと見えた。
『…その顔、不気味だからやめてくれない?』
私がそう言うと、男は葉山の変装を解くため
顔のマスクをビリビリと剥がした。
『まさか他人に変装できるなんてね。』
「声は真似出来ねぇが、変装さえ出来れば使えるからな。」
『…どうして私の居場所が分かったの?』
「お前の職場をうろうろしていた警察を
たまたまあのマンション付近で見かけたんだよ。
もっと簡単に見つかるかと思ったが、5日もかかっちまったな。」
男はそう言いながら、私に一歩ずつ近づいてきて
顎を手で掴まれ視線を合わせられた。
『…パスワードは解除できた?』
「ふっ、この状況で震えもしねぇのか。大した女だ。
心配しなくても準備が整い次第、金は手に入れる。」
男が私にそう告げると、
彼の部下らしき男がパソコン一式をもって
私たちがいる場所へと近づき近くのテーブルに置いた。
「死にたくねぇだろ?
だったら大人しく協力することだな。」
男がそう言うと、
彼の部下がパソコンをカタカタと操作して
私の目に虹彩認証するための機械を当ててきた。
ピコン、と音がして目から機械を外されたが
パソコンの画面を見ていた部下の男が声を荒げた。