第32章 拉致
side 降谷
美緒がアグバロスの組織と接触してから5日たった。
用心深い奴らで
なかなか姿を現さず、組織のアジトも見つからないまま捜査は難航していた。
仕方なくFBIとも情報共有しているが
同じような状態で、進展はなさそうだった。
早く美緒を安心させてやりたいのに
なかなか進まないこの状況に少し苛立ってきた。
他の捜査員に美緒の様子を見がてら
食料や着替えなどを運ばせているが、
何か困った事や必要な物がないか聞いても
わがままひとつ言わず、お礼を言ってくるだけだと聞いた。
捜査で忙しい彼らを
美緒なりに気遣っているんだろうと思った。
そんな彼女の優しさを感じた捜査員達は
寝る間も惜しんでひたすら捜査している。
いつの間にか公安警察にも美緒のファンができたようだった。
普段の彼女は公安の協力者として、いつも的確な情報をくれるし
急な依頼にも関わらず、文句ひとつ言わないですぐに動いてくれていた。
協力者になってまだ数ヶ月しか経っていないのに、
美緒はこんなにも多くの捜査官に慕われているんだと知り
改めて彼女の凄さを実感した。
早くこんな事件は片付けて、
美緒にいつも通りの日常を取り戻させてやらないとな…。
僕は自分に喝をいれて、
再びアグバロスの資料を読み、どこかにアジトを突き止めるヒントが隠されていないか徹底的に読み漁る事にした。
しかし、その時
僕と同じように近くで資料を読み漁っていた風見のスマホに着信が入った。
……それは最悪の知らせの電話だった。